アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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サドのラコスト城が買収されたらしい

驚いた。
知らなかった。

ラコスト城を、あのピエール・カルダンが買い取った、というのである。それも、2001年、もう4年も前のことだ。
廃墟同然だった城は改装され、「エスパス・ピエール・カルダン」という野外劇場に生まれ変わった。
2004年、つまり、昨年の7月には音楽祭が開催され、モーツァルトの「魔笛」などのオペラや、クラシックのコンサートが行われたらしい。

いやあ、恥ずかしながら、知らなかった。

ラコスト城は、南仏プロヴァンスの小さな村・ラコストにある。城主は、「悪徳の栄え」などで知られる18世紀の文学者サド侯爵。サドは、この城で、しばしば、小説さながらの乱痴気騒ぎを起こしている。

実は、1987年に、私はこの城を二度ほど訪れている。
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城には、孤独に修復を続けている男がいて、その男の案内によって、私は城の内部にも入れてもらった。城というよりは、洞窟の内部のような眺めだった。夏のバカンスのシーズンだったが、訪れる人はほとんどいない。城の裏手で、ヌーディストが数人、日向ぼっこをしているくらいだった。
男は、これからも城を修復していくつもりだ、と、語った。何年、いや、何十年かかるかわからない、その時は、誰かが仕事を受け継ぐだろう、と。

カルダンは、確か、かの有名なパリの超高級レストラン「マキシム」も買収していたはずである。
まあ、「マキシム」は、私には関係がないからどうでもいいが、話がラコストとなると、納得がゆかない。

古城を改装して野外劇場を作る、という発想自体は決して悪くない。オペラなどの非日常的空間を効果的に作り上げるには、城のような特殊なロケーションは確かに向いている。私も、アヴィニョンの法王庁の中庭に作られた舞台で、おそろしく長い芝居を観たこともある。しかし、何故、ラコスト城?
もっとも、カルダン、サドにそれほど興味があったというわけではないだろう。おそらく、純粋に、立地条件や物件を検討して、想像するに、破格の安値で買い求めたに違いない。サドの城、というのも、まあ、ちょっとしたスパイスとして有効である。立派な文化事業というわけだ。しかし、何故、ラコスト城?

澁澤龍彦は、1977年にラコスト城を訪れている。その様子は、「城と牢獄」「城」などのエッセイ集や、死後に出版された「滞欧日記」に詳しい。彼は、城の内部には入れなかったようだ。それでも、城の裏手の野原で、夢中で草を摘んだ様子が描かれている。

遠藤周作の小説「爾もまた」(「留学」所収)。
これはサドを研究するためにフランスに渡った若い学者の話で、日本とフランスとの狭間に横たわる深い断絶に打ちのめされてゆくというものだ。そのクライマックスが、ラコスト城への訪問なのである。彼が訪れたのは冬のことで、城への道のりは雪に閉ざされてしまっていた。すぐ目の前に見えるのに、城は絶望的に遠い。彼はこれを近づこうとしても近づけない、日本とフランスとの距離として捉えるのである。

「サド的モデル、それはシリングだ。」と書いたのは、ロラン・バルトである。シリング城とは、小説「ソドム百二十日」の舞台となる城。
さらに、以前の城の持ち主であり、廃墟となったラコスト城の在りし日の姿を調査したアンドレ・ブーワによれば、ラコスト城は地理的にだけではなく、建物や内部の様子なども架空の城シリングとほぼ一致するという。バルトに倣って言うならば、「シリング城のモデル、それはラコスト城である。」となり、さらに三段論法めいて続けるならば、「サド的モデル、それはラコスト城である。」と置き換えてもよいわけだ。

サドの遺言というものがある。
「余は人類の記憶から余の記憶が消し去られるのを望む。」(澁澤龍彦訳)

その遺志に従い、私は、城は廃墟のままで朽ち果ててゆくのが一番いいと思っていた。男の修復作業さえ、余計なことだと思っていた。もっとも、ひとりで修復しようがどうにかなる規模ではないから、まあ、このまま廃墟として朽ち果ててゆくんだろうと思っていた。それが、サドにもっとも相応しい、と。
それなのに、カルダンときたら・・・。

ただ、サドの演劇好きは筋金入りで、城内や、晩年に入っていた精神病院でも、自作自演の芝居を披露していたというから、「エスパス・ピエール・カルダン」を歓迎しているのだろうか。
いや、やっぱり、カルダンの仕業は余計なことと言うほかない。

ここ数年、サドから目を離していたと思ったら、こんなことになっていた。

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