アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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ムーンライダーズの奇跡

前回、ムーンライダーズの話を書いてから、家にあるCDを聴き直している。

正直なところ、ここ数年、ムーンライダーズは聴いていなかったし、CDで持っているものは、限られている。なにしろ、CDというものが当たり前に聴かれるようになったのは、私が大学を卒業してからのこと。もちろん、それまでは、レコードしかなかったのである。

初めてCDというものを聴いたのは、大学四年の頃。友人の家でだった。当時、CDプレイヤーを持っているのは、まわりには彼しかいなかったので、頼む、聴かせてくれ、と拝み倒し、平塚の彼の家まで赴いた。何故かは知らないが、「投げやり」というあだ名の男だった。
彼がまず聴かせてくれたのは、森田公一とトップギャラン。「青春時代」「下宿屋」などを鑑賞させられた。あまり大きな声で言いたくないのだが、私のCD初体験の相手は、森田公一だったのだ。
正直に言おう、何の感動もなかった。
しかし、私は文句も言えず、臆面もなく青春を歌う森田公一の歌声に耳を傾けるしかなかったのである。

その後、小泉今日子の「スターダストメモリー」を聴かせてくれた。これには素直に感動した。KYON2のファンであった、ということだけでなく、当時の歌謡曲に特有の、高音域のシンセサイザーの音(DX7?)が、それはそれは、クリアに響いていたのだ。森田公一には反応しなかった私の耳が、KYON2は見事に捕えたのである。

それから、1年ほどして、私は、CDコンポを買うことになる。それは、ムーンライダーズの問題のアルバム「マニア・マニエラ」のCD発売が決まったからだ。

「マニア・マニエラ」は、1981年に制作されたが、レコード会社のクレームが入り、メンバー自らの判断によって発売中止。CDのみでの発売となったが、すぐに廃盤に。当時、CDプレイヤーを持っているやつなんて皆無に等しく、まさに幻のアルバムとなった。私は、深夜のFMで放送されたものを録音し、雑音だらけのカセットで繰り返し聴いていたものである。
その後、1984年に、当時流行だったカセットブックの形で発売され、1986年になってから、「マニア・マニエラ」は、CD、LP、両方で再販されることになった。そのタイミングに合わせて私もCDコンポを購入し、一番最初に買ったCDが、ムーンライダーズの「マニア・マニエラ」というわけである。

何故、「マニア・マニエラ」が幻のアルバムとなったのか。

「マニア・マニエラ」は、音楽のイナガキタルホ、あるいは、音楽のヰタ・マキニカリスである。
稲垣足穂は、ご存知のように、日本文学史上の奇跡ともいうべき作家で、松岡正剛の言葉を借りるならば、「何もないところから、いきなり現れる打ち上げ花火のようなもの。」ということになる。
もちろん、ムーライダーズというネーミング、稲垣足穂の「一千一秒物語」の一篇「THE MOONRIDERS」から頂戴していることは言うまでもない。

「マニア・マニエラ」は、前例のないポップ・アルバムだ。

曲名を羅列してみよう。それだけでアルバムのコンセプトが見えてくる。
「Kのトランク」「花咲く乙女よ穴を掘れ」「檸檬の季節」「気球と通信」「バースデイ」「工場と煙突」「ばらと廃物」「滑車と振子」「温和な労働者と便利な発電所」「スカーレットの誓い」

テーマは、「産業革命」。
19世紀のヨーロッパの「産業革命」でもあり、20世紀末のコンピュータの発達による産業革命でもある。1980年代、最後の時代に入りつつあった東欧の社会主義諸国の空気までをも表現している。インターナショナルな労働歌であり、切ない愛の歌でもある。ワレサ委員長率いる「連帯」やアンジェイ・ワイダの「大理石の男」、フリッツ・ラングの「メトロポリス」、何故か「キューポラのある街」、そんな断片的なイメージさえ重なってくる。
当時の最新ツールであったMC-4を駆使した、機械による生活、まさに、「ヰタ・マキニカリス」ではないか。

アルバム最後の曲「スカーレットの誓い」の歌詞は、ほとんど意味をなさない、暗号のようなものだ。何しろ、「青春はグリーン、嘆きはブラック、迷路パズルはクロームイエロー」である。これでは、ほとんど、ランボーの「母音」ではないか。そんな抽象的な歌詞の締めくくりに、ヨーゼフ・ボイスの言葉「薔薇がなくちゃ、生きてゆけない」と歌う、ユニゾンのコーラスの素晴らしさ。実際、ムーンライダーズのユニゾン・コーラスというのは、日本一だろう。
とにかく、この曲の、「ヤーヤーヤ、ヤーヤーヤー・・・!」というイントロが聴こえてくると、もう、今でも、たまらず、拳を挙げ、唱和してしまう。
一応釘を刺しておくが、チャゲアスではない。

ぽっかりと中空に浮かび、どんな解釈をも拒む、硬質のテクスチュアを持ったアルバム。ヰタ・マキニカリスでありながら、ひたすら美しく、不思議な高揚感も併せ持っている。ニューウェイヴと呼ぶだけでは、おいつかない、日本ロック史上の奇跡とも言ってよい。
それだけに、当時の日本の音楽界においては、このアルバムが収まる場所はなく、お蔵入りとなってしまった、というのが、まあ、大まかな経緯だろう。

発売延期が決定し、わずか数日で録音に入ったのが、次のアルバム「青空百景」であった。これは、「マニア・マニエラ」の難解さ、硬質さ、とは、180度転回したポップ・アルバム。
あの、一筋縄でいかない、韜晦に満ちた、いわば根性の曲がったムーンライダーズが、「マニア・マニエラ」とほとんど同時期に、こんな明るい素直な音楽を作ったことにびっくりしたものだ。

カッコ付きの「80年」も、折り返し地点にきている、そんな時期だったのかもしれない。

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Comment

しゅうきち says... "初めまして。"
ワタシもスカーレットの誓いで拳を振り上げるタイプの人間です。マニラマニエラはカセットブックで購入しました、ムーンライダーズで最初に買ったCDはアニマルインデックスです。当時思ったのは、何て効率の良いプロデュース方法だろうと思っていたのでした。一人2曲X6人の、家内工業性のオタクバンド、もちろん世界にも珍しいキャリアのバンド。ギネスものだと表彰したいものです。
2005.06.13 15:57 | URL | #- [edit]
猫目 says... "初めまして!"
しゅうきちさん、初めまして。

そうですか、やはり、拳、振りあがってしまうクチですか。同志ですね。
あのカセットブックは良かったですね。
今ではどこかへ雲隠れしてしまって行方不明ですが・・・。
お互い、ライダーズ道、邁進しましょう!
2005.06.13 19:25 | URL | #GaU3vP2. [edit]

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