アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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オールナイト網走番外地

上映前のロビーに入ってみると、その筋としか思えぬ方々に、じろり、とにらまれた。
思わず足がすくんだが、今さら外に出るわけにもいかず、友人たちと、隅っこにこっそりと腰を下ろした。

大学生の頃、池袋で「網走番外地」シリーズのオールナイト上映を観た時のことである。

「網走番外地」は、ご存知、石井輝男監督、高倉健主演のアクション映画で、1965年にスタートし、72年まで18本も作られる人気シリーズとなった。

その夜も、1本目から4本目まで、つまり、「網走番外地」から「続網走番外地」、「望郷篇」「北海篇」を一挙に観られるという贅沢な企画。朝まで健さん、である。

「なあ、兄ちゃんたちよお・・・」
ロビーの片隅、私たちの目の前、がばっと大股を開いて煙草を吸っていた30代半ばの小太りの男が口を開く。びくっとした。どうしよう・・・と、ゆっくりと視線を上げてみる。男が、私たちをじっと凝視している。因縁でもつけられるのか、それとも、金でも巻き上げられるのか?何か失礼なことでもしてしまったか?

「あんたら、健さんのファンか?」
「え、あ、はい、健さん・・・好きです・・・。」
「そうか。」
男がちょっとだけニヤリとしたように見えた。
「健さん、お好きなんですか・・・?」
意を決したように、友人が尋ねる。私は、慌てて、友人を肘で突ついた。
「ああ、俺か。だって、俺、テキ屋だからね。」
「そうなんですか。」
って、健さんはテキ屋ではないだろう。寅さんと間違えてはいないか?

「いや、俺もよお、刑務所入っていたからね。」
「・・・え?本当ですか・・・?」
「本当よ。強姦、やっちゃってさ。」
「・・・強姦・・・。」
おいおい、いくら何でも、健さんはそんなことしないだろう、と言いたかったが、気味悪いほど機嫌が良くなってきた男の前で、そんな反論ができるわけがなかろう。

「お、そろそろ、映画、始まるぞ、入ろうか。」
テキ屋は、私たちを先導して、館内に入った。そして、招待してもいないのに、私たちの席の前に陣取った。

映画が始まった。
網走刑務所に収監される健さん、極道ながら、正義感が強いのが健さんの特長である。
非人道的な刑務官などにも抵抗しながら大暴れ。そして、脱走。なかなか痛快なのだ。
ところが、困ったことに、例のテキ屋、何かというと後ろを振り向くのである。健さんが気の利いたジョークでも飛ばそうものなら、「はははは!」と大笑いしながら、私たちの表情をうかがう。「なあ、今の健さんのジョーク、いかしてるだろ。笑えよ。」つまり、こういうことを言いたいのだ。一種の脅迫である。笑いの強制である。
私たちは、仕方なく、半テンポ遅れて、「ははは・・・。」と力のない笑いを返す。しかし、その頃は、もう、スクリーンには由利徹が大映しになっていたりする。テキ屋は、これを何度も繰り返す。何しろ、この男、片腕を椅子の背もたれに置き、ほとんど真横を向きながら映画を観ている。顔だけは前を向き、健さんのジョークが飛び出した時にはすぐさま私たちに対し、にらみを利かせる体勢だ。

しかし、気づくと、館内の多くの観客がその体勢なのだ。何故か。
この方々、上映途中に客が入ってこようものなら、さっと振り向き、一斉にガンを飛ばすのだ。
さすがに、映画も2本目あたりになってくると、新しく入ってくる客もいなくなり、3本目あたりでは、ぐうぐう鼾をかいて居眠りし始める客が多くなる。昼間、出入りでもあって、疲れているのか。
テキ屋も、気がつくと眠っている。本を開くと、ものの10秒で昏睡状態に陥る、とか、さしずめ、そんなタイプかもしれない。

ようやく私たちにも、やすらぎの時間が訪れたのである。
ごつい男たちの鼾の響き渡る館内で、「網走番外地」、じっくりと楽しませてもらった。

早朝、4本目が終了した。
館内の照明がつき、テキ屋の男がまだ眠そうに目をこすっている間に、私たちは外へ出た。やくざ映画を観終った客は、誰も肩をいからせて歩く、と言うが、私たちにはそんな余裕はなかった。テキ屋が本格的に目を覚まさないうちに、映画館から離れようということしか考えず、網走刑務所を脱走する健さんのように、朝もやの池袋の街に飛び出したのである。

数年後、北海道旅行をした時、網走刑務所の門の前で記念写真を撮った。
つい、「親分さん、お勤め、ご苦労さんでした。」なんて古典的な台詞を吐いてしまうのも、お決まりのパターンであろう。

もしかして、あのテキ屋、網走刑務所にいたのか?そんなことをふと考えた。
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