アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

蚊のホロコースト

それにしても、蚊というやつは、殺しても、殺しても、沸いてくる。
散々、血を吸われ、こいつか、と思って追いつめ、潰してみると、血を吸った形跡がない。どうも、犯人ではなかったらしい。となると、真犯人は他にいる。殺された蚊にしてみれば、冤罪ということになろうが、だからといって、謝罪する気もないし、もう一度裁判をやり直そうなどというつもりも、さらさらない。今ごろ、どこかの物陰で私をあざ笑っている真犯人を探し出してやろう、という、老刑事の執念のようなものだけが残るだけだ。

そんなわけで、夕べから今朝方にかけて、何度も冤罪を生み出してしまった。人権派の弁護士が見たら何と言うかわからないが、少なくとも蚊に関しては、冤罪もやむなし、という姿勢を貫きたいと思う。

もう十数年前になると思うが、ベルギーのブリュージュという街へ旅行したことがある。「北のベニス」などと呼ばれ、ジョルジュ・ローデンバックの名作「死都ブリュージュ」にも描かれた水の都。運河が張り巡らされた、美しい街である。

駅前のツーリスト・インフォメーションで紹介してもらって、運河沿いの、安いが、なかなか趣のあるホテルに入った。妻と部屋に入ってみると、どうも、おかしな感じがする。それは、四方の壁一面に描かれた水玉模様のせいであった。水玉模様といっても、きれいな丸ではなくて、何かのシミのようなもの。「これ、何だ?」妻と顔を見合わせたが、あまり考えもせず、街へ繰り出した。

夜になって、部屋に戻り、いざ眠ろうとすると、例の、あれである。耳元で、ぶ~ん、と唸る、蚊の羽音。最初は、手で払っていたが、耐え切れなくなって起きあがり、電気をつけた。いる、いる、壁に数匹。私は、壁にビンタを食らわし、まず、最初の一匹を潰した。ここで、昼間の疑問が解けたのである。そう、壁一面のシミは、蚊を潰した残骸なのであった。つまり、この部屋は、歴代の宿泊客によって蚊の殺戮を繰り返してきた、そんな血みどろの歴史に彩られているというわけだ。妻と私は、狂ったように、蚊を次々と殺してゆく。しかし、それでも、蚊は、殺しても、殺しても、沸いてくる。こうなると、冤罪も何も考慮していられない。別件だろうか、微罪だろうが、まとめてしょっぴけ!という強引な捜査、いや、もはや、ホロコーストである。

窓の外にはブリュージュの運河。どうも、これが、蚊の発生源らしい。気がつくと、隣の部屋からも、ぱちん、ぱちん、という音が響いてくる。隣人もまた、蚊を殺戮中なのだ。妙な親近感を抱いた私たちは、隣りの部屋の音に応えるように、ぱちん、ぱちん、と壁を叩いてゆく。隣も、負けてはいない。まるで、モールス信号だ。

殺した蚊は、30匹以上になった。そのくらいまでは数えていたのだが、そこからは、もう、わからなくなった。ホテルにとり憑かれ、次第に狂ってゆく男、そう、スティーヴン・キングの「シャイニング」の、ジャック・ニコルソンそのものである。きっと、このホテル、今ごろ、どの部屋にもジャック・ニコルソンがいる。

そのうち、いい加減疲れてきた。隣の部屋の、ぱちん、ぱちん、も、心なしか覇気がなくなってきた感じだ。時間もすでに2時か3時を回っている。私たちは、果てることのない蚊の殺戮に終止符を打ち、ベッドに倒れこむと、そのまま朝を迎えたのである。

水気のあるところ、蚊が発生する。
それは理解できるので、ベランダを徹底的に捜索してみたが、水溜りの類は一切見つからなかった。お手上げである。
いつまで、こんなホロコーストを続けなければならないのか。一日も早く撤退したい。

秋の夜長の憂鬱の種、である。


「死都ブリュージュ」ジョルジュ・ローデンバック著(岩波文庫)
スポンサーサイト

Comment

魔羅一郎 says... "蚊除け"
化猫先生、こんにちは。季節も過ぎたと云うのに、随分と蚊にお悩みのご様子。まあ、これも日頃の行いの報いでしょうから、厳粛に苦難を受け止めて下さい。
確か、『源氏物語』では、虫(蚊)除けに庭に松明を燃やしますよね。
燃える焔は、蚊ばかりではなく、闇に乗じて人に悪を成す鬼をも遠ざける効果があった筈です。
まあ、鬼は兎も角、御簾越しに松明を眺める宵のひと時なんて、風情があるじゃないですか。
火事には充分に気を付けて、蚊に煩わされる事も無く、炎の届かぬあやめもわかぬ闇夜に目を凝らし、「ああ、鵺の鳴く夜は、恐ろしい・・・」などと呟いてみるのも一興でしょう。
2005.11.04 11:43 | URL | #- [edit]
猫目 says... "蚊の呪い"
魔羅リー、こんばんは。

蚊、まだまだ健在です。
チカイエカとかいう蚊らしいですね。都市部に繁殖するやつだとか・・・。

蚊取り線香の匂いも、いかにも季節外れでおかしなものですが、パワーアップした都会の蚊には通用しません。

やはり、松明でしょうかね。
2005.11.07 21:33 | URL | #GaU3vP2. [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://libertin.blog11.fc2.com/tb.php/60-4b7ac151
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。