アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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ヒクソンとグレート・アントニオ

 胎児よ
 胎児よ
 何故躍る
 母親の心がわかって
 おそろしいのか

    (「ドグラ・マグラ」夢野久作)


日本のプロレス界にとって、ヒクソン・グレイシーは史上最高のヒール、つまり、悪役ではなかっただろうか。

ヒールというと、例えば、タイガー・ジェット・シンであったり、アブドゥーラ・ザ・ブッチャーであったり、あるいは、ザ・シークであったりするわけだが、あくまでも、この人たちは、リングの上でのヒール。
ところが、ヒクソンは、プロレスの「強さ」そのものを脅かし、実際、その神話をいとも簡単に崩してきたヒール。特に、「ストロング・スタイル」を標榜し、高田や船木という、強さにこだわるレスラーを育ててきた新日本プロレスは、何とも苦々しい思いで、ヒクソンを見ていたに違いないのだ。
猪木の時代なら、「異種格闘技戦」として、ヒクソンをそのリングに上げたかもしれないが、何しろ、「バーリ・トゥード」というと、正直なところ、畑が違う。莫大なファイトマネーを積んで、もし、負けでもしたら、傷口はもうふさがらない。どうしてよいやらわからないうちに、時間は過ぎ、新日本プロレスは、ストロングスタイル復活のきっかけを逃してしまったようだ。
その後の新日本プロレスの迷走は、誰もが知るところである。

当時、Uインターであった「200%男」安生が、ヒクソンの道場へ殴りこんだ。プロレスラーが道場破りを敢行して、血だるまにされる、というのも、プロレスラーの強さを信じるファンにとっては、何とも信じがたい大事件だったろう。伊勢丹前で猪木がシンに襲われた事件と似ているが、何しろ、ヒクソンはプロレス外ヒール、シャレではない。プロレスであれば、安生の仇を高田が取ることになるのだろうが、そうもいかない。果たして、「新格闘王」高田は、「世界最強の男」ヒクソンの前に、呆気なく負けてしまう。高田が敗れた時の衝撃は今でも忘れられない。高田なら、ヒクソンに勝てる、などと考えていた私は、ナイーブなプロレスファンだった。いや、UWF信者だった、と言った方が良いかも知れない。

高田の敗戦を目の当たりにした前田日明がヒクソンへの挑戦を表明した時は、複雑な心境だった。私は、前田がヒクソンにあっさりと倒され、チョークスリーパーでタップしてしまうという夢を見たのである。呆然とした前田がリングに膝をついているシーンなどは、今でもはっきりと覚えている。余計なおせっかいともいえる夢であるが、プロレス・ファン、UWFファンとしては、それほど、ヒクソンに対して危機感を抱いていたわけだ。もし、前田まで負けてしまったらどうしようという不安が、私に夢を見させたのである。恥ずかしい話だが、目が覚めて、しばらく胸の動悸がやまなかった。

私にそんな不吉な夢まで見させた男・ヒクソン・グレイシー。
それだけではない。

かつて、私の母は、テレビで「密林王」グレート・アントニオがバスを引っ張るというシーンを目にし、その夜、グレート・アントニオに襲われる夢を見てうなされたという。さぞ怖かっただろうとは同情するが、所詮、グレート・アントニオである。レスラーとしては三流であり、ヒールとしても失格だった男だ。
実は、その時、母親の胎内には私がいた。
数十年後、その胎児は、正真正銘、プロレスそのものを脅かすヒールの夢を見てしまった。

プロレスをまったく理解しない人にとっては、グレート・アントニオに襲われる夢の方が、前田がヒクソンに負けるという夢より、怖いだろう。しかし、プロレス・ファンであり、プロレスとUWFの強さを信じてしまった者にとっては、本当に怖いのは、後者である。それが、プロレス内ヒールと、プロレス外ヒールとの違いだ。

プロレスラーによってもたらされた母親の恐怖心は、そのまま胎児に伝えられ、その後、
プロレスの存在そのものを脅かす恐怖心に増幅したのだ。夢野久作もびっくりの展開である。

幸か不幸か、ヒクソン対前田という試合は実現しなかった。すでに負けていた高田がもう一度、泥をかぶる形になった。
非常に残念なことであったが、その一方で、胸をなでおろしている自分がいる。まさに、ヒクソンをめぐるアンビヴァレントな思いが、ここでも顔を出すのだ。

数ヵ月後、私は、横浜へ、アレクサンダー・カレリン対前田を観に行った。そう、前田の引退試合。相手は、「世界最強の男」ではなく、「人類最強の男」。
これはこれで、ドキドキするような顔合わせではあったが、前田が勝っても負けても、プロレスそのものの存在にまで踏む込むような試合ではなかったことは間違いない。

かつてのプロレスという概念が変わりつつある、いや、崩れてしまった現在、誰が勝とうが誰が負けようが、それが、プロレスの存在を脅かすとか守るとか、そんな話ではなくなってしまった。
史上最高のヒールだったヒクソンも、その役目を終えつつある。
ヒクソンに負ける前田、そんな夢も、もう二度と見ることはないと思う。
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Comment

ドン says... "TBありがとうございます。"
私はリアルUWF世代ではなかったので、
正直ヒクソンに対しての恐怖はそんなにありませんでした。
グレイシー最強という世の中への苛立ちの様なモノはありましたが。

できる事なら、今の日本人のレベルでどれだけ戦えるのか見てみたいです。
総合格闘技のレベルは格段に上がっているのか。
それともヒクソンの言うとおり、総合格闘技はあの頃から何も変わっていないのか。
2005.11.14 23:50 | URL | #efsCvMvQ [edit]
猫目 says... "こちらこそ。"
ドンさん、はじめまして。
確かに、今なら、ヒクソンに当てても面白そうな日本人選手は、結構いるかもしれないですね。
ヒクソンの発言っていうのは、いつでも、上から見下ろしたような感があるのですが、果たしてそれが実証されるのかどうか・・・。
ヒクソン、もう、時間はないと思うのですが・・・。
2005.11.15 20:32 | URL | #GaU3vP2. [edit]

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