アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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ビル・エヴァンス

ビル・エヴァンスが好き、などと発言するのは微妙だ。
いかにもジャズを知らない人にも思われそうだし、かといって、ジャズ・マニアはビル・エヴァンスなど聴かないか、というと、そんなことはない。
私はジャズは好きだが、別にマニアではない。ジャズ・マニアというのは筋金入りだから、下手なことは言えない。怖い。それでも、ジャズ音痴と思われるのもまた癪だから、ビル・エヴァンスが好きだ、という気持ちを表すには、時と場合と相手を考えるようになってしまうのである。

この人、自分をどの程度のジャズファンだと考えるだろうか、この人の価値観の中で、ビル・エヴァンスの評価は?などと、ささやかな駈け引きをしてしまう。
そして、「ビル・エヴァンスなんかも、結構、好きですよ・・・。」などと、ちょっとばかり腰砕けな言い方をしてみたりして、相手の顔色をうかがったりする。

実際、ビル・エヴァンスのピアノの美しい響きは、往々にして、ジャズの入門用に最適、などと評される。
でも、例えば、「スイングジャーナル」誌の読者が選ぶ名盤ランキングでは、マイルスの「カインド・オブ・ブルー」だとか、ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」などという名だたる名盤を抑えて「ワルツ・フォー・デビイ」がトップなのだから、ジャズを聴きこんだファンでも、実は、ビル・エヴァンスが大好きだ、ということは間違いないのだ。
ミュージシャンにとっても、エヴァンス以降のピアニストは、「エヴァンス派」であるか否か、などという色分けさえ強いられるほどなのだから、その影響力は計り知れないのである。

ビル・エヴァンスを知ったのは、恥ずかしながら、実はそれほど昔のことではない。
しかも、ビル・エヴァンス自身の演奏ではなかったということがちょっと情けない。
1993年、NHKだったと思うが、宗教学者の島田裕己がパーソナリティを務める深夜のテレビ番組で、彼が、ジョン・マクラフリンの新譜を紹介していたのだ。それは、「time remembered」という、ビル・エヴァンスの曲を集めたアルバム。島田裕己は、どうも、ビル・エヴァンスのファンらしい。そして、流れたのが、マクラフリンのアコースティック・ギターによる「ワルツ・フォー・デビィ」。その旋律の美しさ、こんな音楽があったのか、という思いだった。
時はまだオウム事件の2年前。島田裕己も、2年後に自身に襲いかかる悲劇を知らずに、呑気にビル・エヴァンスを聴いていたのかと思うと、心が痛む。愚かなりし、島田裕己。

そして、翌日、私はCDショップに飛んでいって、このアルバムを買った。
私はジョン・マクラフリンを通じてビル・エヴァンスを知った。
もちろん、しばらくして、私はエヴァンス自身のCDを買うことになった。そして、それまでほとんど知らなかったジャズを聴き始めることになる。

ビル・エヴァンスの演奏は、時に「耽美的」などと言われ、そう言われれば、確かに耳に心地良いものではあるのだが、そればかりだと単なるイージーリスニングになってしまう。彼のピアノには、イージーリスニングにはない、ぴーんと張りつめた糸から、たまらずに音が零れ落ちるような、そんな緊張感がある。ぎりぎりのところまで自己を抑制し、構築されたスタイルがある。単に耳障りの良い音を並べるだけのピアニストとは違って、明晰なコンセプトとディテイルがあるのだ。
幻想文学に必要なものは「幾何学精神」である、と喝破した澁澤龍彦の言葉も思い出す。

ビル・エヴァンスのアルバムで何が一番好きか、という問題。
まあ、普通に言えば、「ワルツ・フォー・デビイ」とか、「エクスプロレイションズ」などの、スコット・ラファロとポール・モチアンとの史上最強トリオ、ということになるのかもしれないが、それはそれとして、たまらなく好きな一枚がある。
それは、晩年の傑作「you must believe in spring」
ベースにエディ・ゴメス、ドラムにエリオット・ジグムンドというトリオなのだが、これほど、スピリチュアルなジャズを他に知らない。それは、コルトレーンがスピリチュアルである、とか、そういう意味とは全く違う。
大体、コルトレーンって、本当に、そんなに凄いのか?

「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」の全篇を貫くコンセプトは「死」。自殺をした、兄ハリーと前妻エレイン、というふたりへのオマージュでもある。
実は、ハリーが自殺をする前にすでにアルバムは録音されていたらしいけれど。
エヴァンスは、死と対話している。すでに3年後に迫っていた自身の死をも視野に入れているようにさえ思える。エヴァンスは自殺ではなかったが、体は確実に麻薬に蝕まれていて、その死を「ゆるやかな自殺」とする声もある。エヴァンスは早い段階で、自分の死を認識していた節さえあるのだ。
そして、死の向こう側にある「春」へと静かに目を向けているのが、このアルバムだ。
聴いていると、どこか近くて遠いところへ連れて行かれるような、そんな気さえしてくる。
自分も、死を悟ったとき、この音楽のような境地になるのだろうか。

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Comment

魔羅一郎 says... "君の為の歌"
日本人なら演歌でしょう。
我と共に、いざ、演歌の花道を!
2005.06.07 20:30 | URL | #SpCREyAI [edit]
猫目 says... "僕の為の歌?"
ロマン歌謡は駄目ですか?
ちなみに、さぶちゃんの息子と遊んだことがあります。
2005.06.07 20:53 | URL | #- [edit]

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