アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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高知物語 1

大運河



格闘技を堪能したその翌朝、私は、妻の実家がある高知へ移動し、正月を過ごした。
高知は3年ぶりだ。

東京で生まれ育ったシティ・ボーイの私には、高知の町は珍しい。
だから、帰省するたびに、ぶらぶらと散歩を楽しむ。

初めて高知の大地を踏んだのは、もう、20年近く前のことになる。
街の中を運河が張り巡らされている様を目にして、まさに「水の都」、黒潮のヴェニスだ、と看破したら、妻に、あれはドブというものだ、と否定された。せっかく、ヴェニスやブリュージュと並び称してやったのに、一気にしらけた気分になった。

あれから歳月が過ぎた。
数年前、近所にバイパスが通って、突如、町の半分は風景が一変してしまった。面白みのないマンションや分譲住宅が立ち並ぶ、新興住宅地のようになってしまったのだ。妻の実家の周りのドブも隠蔽されてしまった。暗い夜道を酔っ払いながらでも歩いていたら、確実に墜落するに違いない危険な状態だったから、それは当然の政策と言えよう。町の中に、カムイが歩くような獣道があるようなものである。
妻も、何度も頭から突入したらしい。まさに「犬神家の一族」の佐清(すけきよ)である。

それでも、運河を求めて、私は、正月の高知の街をさまよってみた。町の片隅には、懐かしい風景がまだ残っているはずだし、小さな運河沿いに進めば、いつか、大きな運河に出るはずだ。
新興住宅地を離れると、次第に古い町並みが顔を出す。人気のない正月の水の都。幻想的とさえ言える。「墨東綺譚」の永井荷風か、「死都ブリュージュ」のローデンバックになった気分だ。
ある、ある。運河だ。しかもかなりの大物。

MJQの名盤「たそがれのヴェニス」が、頭の中で鳴り響いている。ターナーとか、カナレットとか、、そのあたりのヴェネツィアの風景画が瞼に甦る。

すると、水の音に混じって、運河の向こうから、カンツォーネの歌声が近づいてくるではないか。きっと、ゴンドラの船頭さんが歌っているものに違いない。脇道からは、白い仮面が顔を出すのだろう。そう、今宵はカルナバル。荷風でもローデンバックでもない、私は、ダーク・ボガード演じるアッシェンバッハ。美少年タジオの幻を求めてヴェニスの町をさまよう老音楽家である。もちろん、「ヴェニスに死す」である。町にはコレラが蔓延し始めたようだ。教会の鐘の音が聴こえる。終末は近い。

「けつねうどん」。
突如、老音楽家の目にそんな文字が飛び込んできた。ふと目が覚めると、そこは、バイパス沿いの新しい道。
「けつねうどん」とは、どうも、関西の言葉で「きつねうどん」のことらしい。高知に来るたびに目にしているというのに、また、ここでひっかかってしまった。けつね、とは、どうも腑に落ちない。どうして、きつね、と言えない。

「1×1アイスクリン」。
老音楽家は、また、目にしてしまった。「1×1アイスクリン」。アイスクリン、とは、シャーベットのことらしいが、素直にアイスクリームとは言わないのである。しかし、どうして、「1×1」という謎の数式が枕詞につくのか。ブランド名なのか。こちらも腑に落ちない。

そんなことが気になってしまっては、もう、老音楽家ではいられない。
荷風でもローデンバックでもいられない。
MJQも、カンツォーネも、もう、響いてこない。

運河沿いの旅は、突然、終わりを告げた。
暗くなってきた新興住宅地をとぼとぼと家路に着く。

妻の実家で、新鮮な刺身を肴に、土佐鶴を飲む。
運河があろうがなかろうが、これだけは、やめられない。
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Comment

ヨコタ says... ""
自分だけで、土佐鶴は、ずるい。
2006.01.07 05:29 | URL | #- [edit]
ヨコタ says... ""
二度目を書かないと、どうも気がすまない。
猫目さん。ぼくたち長い付き合いなのに、一度も土佐鶴のことを、話して下さらなかった。
Wさんはテキーラを隠すし、Nさんはワインを出し惜しみするし、そして、あなたまでが今まで、土佐鶴の存在をぼくに隠していたのだとすると、…、ちょっと、納得がいかない。
2006.01.07 05:43 | URL | #- [edit]
koyashiki says... "お久しぶりです"
小屋敷です。
いつも楽しく拝見させていただいております。

奥様の実家は高知ですか。いいですね高知。っというものの僕は高知には行った事はないんですがなんとなく文章から「いい感じの田舎っぽいなあ」という感じが伝わってきまして(笑)。

僕の実家も田舎なのですが、やっぱり何処でも一緒なのですね。毎年帰省するたびにデカイ建物ばっかり建ってます。少年時代を過ごしたあのころの景色のままにしておきたい。という不可能な願いは、街の景観と共に毎年壊れていってしまいます(笑)。そうやってそれぞれの歴史ってのは編まれていくんですね~。

そしてやはり、僕も猫目さん同様、それでも酒はやめられません(笑)。
2006.01.08 05:51 | URL | #- [edit]
猫目 says... "謹賀新年"
ヨコタさん、今年もよろしく。
土佐鶴の存在、ヨコタさんには内緒でした。喋るまい、と決めていました。ヨコタさんは焼酎党なのだと思っていましたので。
また、夏に、池袋で飲みましょう。

小屋敷様、あけましておめでとうございます。
高知は、魚がおいしいし、もちろん、お酒もおいしい、にんにくもそのまま食べてしまう、日本では稀有な場所です。
それでも、風景が変わってゆくのは、たかだか20年くらいのことしか知らない私でも、ちょっと面白くないですね。
変わりゆく風景を眺めながら、やっぱり、酒、ですね(笑)。
2006.01.10 08:13 | URL | #- [edit]

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