アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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高知物語 2

秘密の多い料理店

高知で過ごす正月も最後の夜。

老舗の洋食屋さんに、一家で出向いた。有名作家やスポーツ選手も通うという名店らしい。

店に入ると、2階の個室に通される。
義父母がお得意さんだということもあるのだろう、厚いおもてなしである。靴を脱いで廊下を進む。まるで旅館のようだ。

10畳ほどの個室に入ると、そこには、一足先に椅子に座り、テレビを見ている義父の姿があった。テレビ?そう、テレビがあるのだ。テレビがあると、ついつい、見入ってしまうのは、現代人の悲しい習性である。高知最後の夜のディナーを、テレビとともに過ごしてよいものか、私は大いに迷ったが、婿という立場上、ここでアクションを起こすことは出来ない。

マスクをしたウェイトレスがメニューを持ってきた。
まるでメイド喫茶みたいな可愛らしいブラウスを着ているが、実は、還暦を迎えたと思しい妙齢のご婦人である。マスクをしている上に、喉の調子が良くないのか、声がほとんど聞き取れないのが困る。
メニューは、数ページに渡る豪華なもの。じっくりと吟味してやろうと思ったら、このウェイトレスが、ぴったりと横にはり着き、ひとりにしてくれない。

「じゃあ、こちらがいいかもしれませんね、ステーキ。ステーキ。」
他にどんなものがあるのか、確認するまもなく、オーダーは決められた。ページをめくることさえ許してくれない。ほとんど誘導尋問である。気の弱い私は、抵抗することができない。義父が何かを言いかけると、さっと、義父のサイドにまわり、「こっちのステーキ、これは、それほど大きくないですからね、大丈夫ですよ、ステーキ。」

結局、6人中、4人がステーキでまとめられてしまった。本当の「おまかせ」である。
ただ、オーダーの内容を伝票などにはまったく書き取らないのが不安といえば不安だったが、そこは、プロだから大丈夫なのだろう。

「お飲み物はいかがしましょ?」
「ワインなんてありますか。」
「はい、ございますよ、何にします?赤?白?」
「あの、そこに書いてありますか・・・?」
私がメニューを確認しようとすると、ウェイトレスは、さっとメニューを小脇に抱え、「ここには、書いていないんです。今、お持ちしますね。」
と、さっさと出て行ってしまった。

あのメニュー、よっぽど、大事な秘密が隠されているに違いない。じっくり見られると困るようなことが書かれているのだ。かつて、ファティマ第三の予言の内容を知り、時の法王は驚愕のあまり失神したと伝えられるが、きっと、あのメニューにも、店の存在を根底から揺るがしかねない予言のようなものが書かれているのだろう。店の創立者は、実は、本当の創立者ではなかった、とか、「牛肉」という字を、「片肉」と書いてしまった、とか、そういうことではないかと推測してみる。いや、もしかすると、あのウェイトレスの個人情報などが事細かにレポートされているので、つい恥ずかしくて隠してしまった、とか、意外とそんなことかもしれない。

さて、しばらくすると、頑なに店の秘密を守り続けるウェイトレスがやってきた。
「ワイン、こちらになります。」
と言って、私の手に紙切れを握らせた。開いてみると、そこには、メモ用紙に、鉛筆で、「シャトー○○  2500円 ボジョレーヌーボー3000円」などと書かれている。ワインリストである。わざわざ直筆で書いてくれたのかと思うと面目ないが、さっと見て、一番安いやつを頼んだ。

その後、前菜などを食べていると、例のウェイトレスがやってきて、こう切り出した。
「いやね、実はね、お子様が注文したステーキ、揚げてしまったんですよ、カツレツになってしまったんですわ。でも、カツレツもおいしいですよ。どうしましょ、もし、ステーキがよろしければ、もう一度焼き直しますけんど。」

そんな告白を聞いて、すぐに主旨を理解できる人がいるだろうか。
最初は、ウェイトレスの言っていることがよくわからなかった。ようやく意味を飲み込めたのはそれから十数秒後のことであった。まるで恐竜である。ステゴザウルスである。
そりゃ、こちらは、ステーキを注文したのである。カツレツを注文したのではない。しかも、ステーキを推薦したのは、他ならぬ貴女ではないか。「ステーキがよろしければ・・」って・・・。
しかし、頭では理解できても、まだ、体がついていかない私は、舌が動かない。すると、義母が、「・・・仕方ないですよ。もし、この子が食べなければ、私のと換えますから・・・。」と言ってくれた。何だか納得いかないような気もするが、ここは我慢するしかないだろう。

それからすぐに、カツレツが運ばれてきて、娘の前に置かれた。
彼女が暴れだすのでは、という大人たちの不安は幸いにも現実のものとはならず、おいしそうにカツレツを平らげてくれた。無言で娘を見守りながら、ほっとした私たちであった。きっと、娘はよくわかっていなかったのだ。そう信じたい。

不安に耐え切れなかったのか、義父が、テレビをつけてしまった。
「お父さん!テレビ、つけなや(つけなさんな)!」
妻に一喝され、「おおっと、ごめんなさい・・・。」と、あわててスイッチを切る義父。

高知最後の夜は、こうして過ぎていった。
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Comment

まいじょ says... "常連さんが店をつくる?"
それにしてもすごい店ですね。高知に行くことがあれば、ぜひ立ち寄りたいと思います。差し支えなければ、店名を教えてください(笑)

またそんな店の常連でおられる義父母さまも相当な方とお見受けします。猫目さまの奥さまの性格がしのばれます。
2006.01.12 17:11 | URL | #- [edit]
猫目 says... "常連になろうかな。"
まいじょ様
是非、お食事をなさってください。
店名は・・・ご勘弁を(笑)。ここでは、発表しかねますので、メールなどでも、個人的に(笑)。
平和なお食事をお祈りしております。
2006.01.13 15:12 | URL | #- [edit]

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高知 旅館
高知☆旅館で見つけた、いい旅館! !いつも、このブログを読んでいただきありがとうございます。大変ご好評のこの旅館日記ブログ。今まで、あんな旅館、こんな旅館を紹介してきました。今日紹介する旅館お奨めは、高知ホテルです----------------------------------■20
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