アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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今夜はチェット・ベイカー

昨日、ビル・エヴァンスの話を書いたので、今日もジャズの話。
ビル・エヴァンスと並んで大好きなチェット・ベイカーについてである。

チェット・ベイカーのヴォーカルについては、意外と好き嫌いがあるらしい。
いわゆる「へたうま」系であり、一説には、ジョアン・ジルベルトなどの、ボサノヴァの唱法にも影響を与えたというくらいの、脱力感あふれる、というのか、アンニュイの権化みたいなもの。本職はトランペッターだから、チェットにとってのヴォーカルというのは、余技、まさに「アングルのバイオリン」である。

この、余技であるヴォーカルが、チェットの吹くトランペットと、ほとんど同じ音色を奏でて、しばし区別がつかなくなる、と言われるのも天才の所以なのだが、何より、その、男だか女だかわからないような弱々しい、それでいて、蛇が耳元にねっとりと囁きかけてくるような声色、どこか不安定な音程、一種の麻薬である。
だから、好き嫌いもあるんだろうな、とは思う。あんなものはジャズじゃない、という人もいる。気味が悪い、という人もいる。

1956年の名盤「Chet Baker sings」は、余技であるヴォーカルをフィーチャーしたアルバムで、全曲、どこから聴いても同じような曲ばかり、というか、チェットにかかるとどんな曲でも同じようなもの、金太郎飴になってしまうところがいい。それだけ、チェットのオリジナリティというのは際立っているということだ。
静かな真夜中に、エンドレスで聴いていたい一枚なのである。

若い頃のチェットは、ジャズ界のジェームス・ディーンなどという、ちょっと恥ずかしいような異名を得ていた。まあ、要するに、二枚目だったわけである。
それが、麻薬に手を染め、逃げるようにして渡ったヨーロッパ。その後も、麻薬がらみのトラブルでトランペッターの命とも言うべき歯を折られたり、と、チェットの人生は大きく崩れ始めてゆく。イタリアやイギリスでは麻薬所持で逮捕される。ジャンキー人生まっしぐらである。

その後、復帰し、ヨーロッパを中心に活動を再開したチェット、晩年の写真を見ると、しわくちゃの老いさらばえた姿が衝撃的だ。あの、初々しい美青年であったチェットなのか、と目を疑う。老いた、といっても、たかだか50歳くらいなのだから、驚きである。
じゃあ、チェットの音楽も駄目になったのか、というと、それがまた不思議なもので、老いたチェットのヴォーカル、これがまた味がある。あの甘いアンニュイな声色ではない。不安定な音程は昔のまま、さらりと歌っているはずなのに、一種の凄みさえ感じるヴォーカル。チェットの破滅型の人生が、見え隠れする。

この頃のチェットは、来日もしている。自分の演奏が終わってから、友人たちとどこかのジャズ・クラブに飛び入りしたというエピソードがある。その時、客席には、ジャズマニアで有名なタモリがいた。目の前に突然現れて演奏を始めたチェットに、「あのチェット・ベイカーが目の前で演奏しているなんて信じられない・・。」と言ったらしい。

その後、1988年、チェットは、アムステルダムのホテルから転落死する。
自殺か、事故死か、それとも他殺か、実のところ、今でも真相はわかっていない。

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Comment

takaogi says... "チェット・ベイカー"
はじめまして。トラックバックさせていただきました。チェットは真夜中、静かな時に聴くとよいですね。同感です。
2006.01.10 13:45 | URL | #- [edit]
猫目 says... "真夜中のチェット"
はじめまして。
そうなんです、真夜中が合っている。酒なんかちびちびとやりながら、チェットの吐息のような歌に耳を傾ける、っていうのが、一番贅沢なんではないでしょうか。
ただ、なかなか静かな夜、っていうのもないものなんですが・・・。
2006.01.12 10:38 | URL | #- [edit]

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寒い日のチェット・ベイカーは哀しい
寒いですねぇ。今年も暖冬だとふんでいたのですが、冷凍庫の底のような寒さです。 ここ関西でも、明日は氷点下の予想が出ています。大阪は20年ぶりの氷点下だそうで、 近年の気象関連は何でも極端ですね。できるだけじっとしてよかな。。。 寒い晩は、チェット・ベイカー
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