アングルのバイオリン

violon d'Ingres. 趣味か余技か、それとも悪ふざけか・・・ とにかくこれが私の日常。

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ティファニーで朝食を

ティファニーで朝食を食べてみたい。
迂闊にもそう考えてしまった人は、かなり多いはずである。少ないはずがない。
もちろん、私も、ティファニーの朝食とはどういうものか、ついつい考えてしまったひとりだ。

ティファニーとは、ニューヨークあたりにあるのではないか、という推測はまあ、当たっているだろう。で、朝食なのだから、朝早くからやっているレストラン、いや、朝定食なんてものを出す食堂の類か、と考えてみた。朝定食、と言っても、ニューヨークである。ご飯に納豆に鮭とか、そんなものであるはずはない。生卵と海苔ぐらいは加わるのだろう、なんていう話でも、もちろん、ない。おそらく、ハンバーガーとか、ベーグルとか、スクランブルエッグとか、チリコンカンとか、そういったものが出るのだろう。食後のコーヒーは、当然のことながら、アメリカンである。

ティファニー、というのは、きっと、この食堂の名物おばさんの名前だ。ティファニー・スミス、とか、ティファニー・ジョンソン、とか、そんなところだろう。今ではすっかり年を取って太ってしまい、昔の面影はないが、若い頃はさぞ美人だったに違いない。いわゆる看板娘、というやつだ。

当時、ティファニーを目当てに、朝早くから、朝食を食べに来る男たちが押し寄せたものだ。「ニューヨーク・タイムス」を読むふりをして、ちらちらとティファニーに目を走らせる男たち。中には、あからさまに、ティファニーにちょっかいを出す輩もいる。マンハッタンのガソリンスタンドでの夜勤明けに立ち寄るボブである。妻のルーシーには、毎朝、ここで朝食を済ませてくることは内緒にしている。ルーシーは、最近、夫の食が細くなったことを心配している。
「ちょっと、朝から、ふざけないでよ!」
勝ち気なティファニーがそう言うと、どこからともなく笑い声が起きる。
「おいおい、ティファニーがご機嫌ななめだぞ!」
バードランドでトランペットを吹いているチャーリーである。ジャムを終えた後のベーコンエッグをこよなく愛している。「ティファニーの焼くベーコンエッグは、ブルックリンで一番さ。いや、ニューヨークで一番だね。ヤンキースだって?二番目だよ。」それが、チャーリーの口癖だ。
窓の外には、セントラル・パーク。いかにもニューヨークらしい朝食風景だ。ティファニーとは、そんな店だった。

ティファニーで朝食を。
しばらくして、世界中でこれが合言葉になった。
観光客が、ティファニーで朝食を取るようになった。ホテルで済ませればいいものを、わざわざ、ティファニーまで行く、まさに、おのぼりさんである。「ティファニーで朝食ツアー」なんていうツアーも出来て、時には、日本人だらけになってしまうこともある。早朝、ニューヨークに着いて、ティファニーで朝食を摂り、その足で帰国する、という、週末を利用した無茶なツアーまであるという。月曜日、仕事場で、「朝食は、ティファニーで済ませてきたんだぜ。」そんなことを言って、女子社員の気をひくのである。
年老いたティファニーも、記念写真に引っ張り出されて、それは大変なものである。ティファニー名物の朝定食も、「2580円」と日本語で書かれ、日本円も使えるようになった。

ティファニーは、いつしか、昔のティファニーではなくなった。そんな光景を眺めながら、ため息をつく老ニューヨーカーも多いと聞く。そう、かつては、若きティファニーに想いを寄せたボブもそのひとり。
「やれやれ、ティファニーだって?ああ、大昔、そんな店があったっけね・・。そう、昔の話さ・・。」
ボブは、そう言い残して、52番街の朝焼けに消えていった。

そんな話を、ホリー・ゴライトリーが聞いたら、何て言うだろう。
「ティファニー・ジョンソン、それは、私よ。」
意外や意外、笑って、そんな驚きの告白をしてくれるかもしれない。
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